ODA Online Lectures

二十渉・雪山セミナーライン講座 その1 2022年12月12日 

この講座は文登研(現・国立登山研修所)において織田博志が講義していたものです。冬山、雪山の登山を語ります。

日本の積雪について日本の降雪量は、世界他国と比較してみても多いです。ヨーロッパで一番積雪量が多いのはウラル山脈です。それでも日本の3分の1、程の積雪です。日本と外国は気候が違うため、日本の雪は独特の特徴が有ります。

外国の多雪地帯、気温の低い山間部では厳冬季の気温は、昼夜ともに0度C以下ですので雪質は、殆ど変化しません。降雪から時間を経てもルーペ観察しても雪の結晶がほぼ完全な形で残っています。日本では冬でも日中の気温が0度C以上になることが多いので雪質の変化が激しいのです。

日本の多量の積雪は、ごく一部の万年雪渓を除いて、盛夏には消えていきます。日本人にはアジアで唯一と言えるほど、スキー、登山のウインタースポーツでの冬期登の愛好者がいます。氷河の無い日本の登山者に、多量の降雪は、それに代わる厳しい自然環境与えてくれます。

私の体験でも北アルプスでの冬期クライミングが海外でのクライミングに大いに役立ちました。気温変化の激しい日本の登山が海外登山と比較しても難しいと感じることは多々有りました。世界でも有数の積雪の多さ、雪質の変化、それが平凡になりがちな積雪の形を、様々な形に変えています。

造形美では日本の雪は見事です。私達はそれに魅せられて山へ向かいます。次回からは、雪山に内在している危険性について語ります。

二十渉・雪山セミナーライン講座 その2  2022年12月13日

私達は、日本の雪を十分に知りましょう。一見、静止しているように見える積雪は常に下方に向かって少しずつ移動しています。その大規模なものが雪崩と言えます。

雪崩の切断面は弱層と言います。弱層の5つを言え!と問われて
(1)新雪(2)霰、アラレ(3)霜ざらめ(4)濡れざらめ(5)表面霜、と即答出来る人は世界標準の積雪断面弱層、観察、衝撃テスト、ルッチブロック、テストを経験していると思います。

登山中、積雪の状態を知り得る唯一の方法です。簡易的な方法も有りますが、これだけは言えます。テスト規模がある程度大きくなければ実際に即した状態を知ることは出来ません。その兼ね合いをとったのが、このテストです。

実技で山行中、テストを体験していきます。特にバックカントリースキーでは、雪崩の危険がある斜面が、滑走して面白い斜面という、リスクを背負っています。登りは西面から、山頂からの下りは東面の場合は、2回テストする場合も有ります。手早くテストしなければ時間がなく困ります。そのために、スノーソー、スノースコップ、等の用具を使いこなせなければなりません。

これは、緊急時のシェルター作りにも必要な事です。実技で繰り返し雪と遊びましょう。積雪観察をすることにより、雪崩といった重大な危険を回避出来ます。ある研修会で、雪の多い年でしたので、どれだけの積雪があるのか?と思い真下を掘ったことが有ります。5mを越えてまだ土は見えませんでした。この時も断面を十分に観察しました。

例年だと、2月位に黄砂が来るのですが、黄砂の層が有り、その上は、黄砂の降った以降の上載積雪とわかります。2回目もあれば時間軸がわかります。雪面から下はどんな状態なんだろう?と素朴に思ってください。観察に必要な用具はスライドルーペ、プラスチックの方眼カード、雪温計が有れば良く理解出来ます。

多様な雪の変化を知りましょう。詳しくは実技で。
二十渉・雪山セミナーライン講座  その3  2022年12月14日  
 
雪の変化を知りましょう。新雪は、完全な結晶の形をしています。気温が上がり結晶がばらばらになり、しまり雪となり、その状態の結晶が集まりざらめ雪、気温が下がりばらばらになった結晶が再結晶した、しも雪となります。簡単に4種類の変化があります。

形の変化では、風の強さや方向により模様が違う、波状雪。山頂や尾根に風で運ばれた雪が風下側に作る雪庇。木の切り株などに積もった冠雪。雪が樹木等に付着する着雪。樹木上の雪の落下等により、転がりだんだん大きくなる、雪まくり。気温が0度C以下の時雪の固まりが斜面を転がると出来る、雪球。木の枝に積もった雪がヒモ状に垂れ下がった雪ひも。いずれも見ていて楽しい現象が有ります。他にも雪レース、雪えくぼ、等が有ります。

スキー登山ではツリーランの時に注意しなければならない雪輪、雪中に切り株が有ることを示す雪面の円形融雪模様等も有ります。皆さんは、今迄にどのような雪の形を見られたのでしょうか。私は、中学生の時に学校行事、耐寒訓練の金剛山に登り、雪の美しさ、不思議から登山を始め今に至ります。雪の山から氷河の山へと拡がりアルパインクライミングを続けることが出来ました。雪について学ぶには、雪の山で新雪から残雪期迄、多くの山行体験をして下さい。一回一回の登山を疎かにせずに雪の観察を怠らず判断力を養っていきましょう。
二十渉・雪山セミナーライン講座  その4 2022年12月14日 

緊急時の雪のシェルター作り、雪の観察に必要な装備はすでに語りました。
体験から必ずスノースコップだけでなくスノーソーが必要です。スノースコップの破損の原因となるコジルという動作が必要無くなります。是非持つことを勧めます。

私は、1976年以来、SMCのスノーソ-を愛用しています。もう3代目になります。他のパーティーに出会うと持参している登山者が少ないので敢えて伝えます。無雪期の登山でも折りたたみノコギリ、コンパクトで良く切れるものを持って行きます。不時のビバークには強い味方です。

危急時には、芝ソリ作り、杖作り、代用テントポール作り、小屋掛け、等森林限界の高い日本の山では使い応えのある用具です。現在、鉈や鎌を持っていく登山者は、少なくなりました。登山道等、地元のかたの整備が行き届いているからですね。

積雪期の登山はラッセルに始まりラッセルに終わると思います。登山者の多く集まる人気の山、山地域では、本来雪山では、当たり前のラッセルをして進む、ことが経験出来ません。これは実に大切な事なのです。私の育った山岳会では、多くの人が集まるエリアを避けて雪山での合宿は計画、実践していました。正に、ラッセルに始まりラッセルに終わる山行を大事にしていました。

正月休み以外の山行もたくさん計画、特に、1月中頃から3月中頃迄の雪山は、静かで人気の槍、穂高でも登山者に出会うことは稀でした。私の育った山岳会では北アルプスに積雪期は通いました。八ヶ岳には行くことが有りませんでした。アルパインガイドとして八ヶ岳の全域にわたり冬のクライミングをゲストと共に楽しみました。

やはり私の育った北アルプスとは違い積雪が少ないと云うことは楽でした。雪質も軽いと思いました。但し、寒気は強いので凍傷には注意しました。積雪が少ないと氷瀑の露出が有ります。八ヶ岳や南アルプスの尾白川、戸台川流域とアイスクライミングが楽しめ山頂を目指して沢筋をルンゼ詰め登りました。

どこのエリアでもラッセルをすることになると、今回の山行は充実すると思っていました。実技では、その感覚も味わってほしいと思います。さてラッセルですが、わかんじき、スノーシュー、スキーと用具が有ります。日本では伝統的に、わかんじき、が使われてきました。

次回は用具について語ります。
二十渉・雪山セミナーライン講座  その5 2022年12月15日 
  
さて、元気に続けます。ラッセルをする為の用具について語ります。
日本では伝統的に、わかんじきが使われ、極北地域ではスノーシューというよりスノーラケット云われるものが使われてきました。

北欧ではスキー、今のクロスカントリースキーが使われて、カリブーの群れを追っていたようです。それぞれ大きさや形状を工夫して発達してきました。欧州では近代の登山になると氷河のアプローチが有りますので山岳スキーのビンディング(締具)とスキー板が使われてきました。

八甲田山大遭難の後、欧州からスキーが送られてきて、これを使用、研究してみてはどうか、という話も有ります。ラッセルに一番強い用具は、スキーです。山スキーがバックカントリースキーと呼ばれるようになってから飛躍的にスキー用具の性能アップ、軽量化、進歩しました。

わかんじき、スキーを比較してみると(登高時の速さ、エネルギー消費量)20度の斜面をザックを背負いラッセルした場合、歩行時の毎分、酸素消費量は、わかんじきを使うほうが若干低いです。しかし、スピードはスキーを使う場合のほうが40%程速い、1m進むのに必要な総エネルギーは、スキーのほうが20%少ないのです。

わかんじき、スキーそれぞれ固有の使用目的があるので、どちらが、優れているかという問題ではないと思います。スキーは優れたラッセル登高用具だと思います。私は、還暦の年、記念に冬の槍ヶ岳を新穂高温泉から日帰りで往復したことが有ります。スキーを使うことで速く、帰りも滑走の楽しみが有り満足度の高い山行でした。

アルパインガイドでゲストと共に、冬の笠ヶ岳を槍見温泉から日帰りで往復した時は、わかんじきを使ったのでかなり消耗しました。雷鳥岩から稜線が雪が硬く、アイゼンの領域でしたので何とか日帰り出来ました。スキーを使っていれば、雷鳥岩でスキーをデポしていた状態です。そこからは、スキーでは危険なほどアイスバーンになっていました。

スノーシューは西洋わかんじき、と思って下さい。但し、脚を上げずに、滑らしながら歩くことが出来るので、わかんじきと比べて傾斜の緩やかなところでは楽です。私は、スノーシュー、わかんじき、スキーを使い分けています。1m程の短い太いスキーにシールとスキーアイゼンを使い登り滑る時も有ります。この場合、ザックに担いでも。軽くコンパクトです。

私は、スキーを始めるのが遅く、34歳からでした。それまでは、冬は冬季クライミング一辺倒でした。新しいものに出会い善き師匠に出会い、そのお陰で、スキー登山が私の生涯スポーツとなっています。私のヒマラヤ登山での仲間は、信濃大町に住みます。冬、天気のよい日、早朝、自宅の前からシールをスキーに付け五竜岳を日帰りで往復するんだと語っていました。

ラッセルと云えば、上市の友人は、正月の天気のよい日、山頂迄ついた踏み固められたラッセルシュプールを朝いち出発して劔岳早月尾根を日帰りしてきました。ラッセルをすることが雪山では大変なことだと解って頂けると思います。だからこそ大事な事だと思います。

実技では皆さんの持参する用具でその特性にあったラッセルを学びましょう。