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二十渉・雪山セミナーライン講座 第13回

今回は、地図について語ります。地図は登山者にとって、大切な情報源です。只、情報量豊富な地形図も、登山中、頻繁に出し読みこなして行かなければ、現在地の確認やこれからの行動に役立ちません。地形図を読みこなす知識が必要なのは言うまでもありません。

磁針偏差について、海外登山では驚くことが有りました。アラスカの登山に通っていた頃アンカーレッジの政府事務所で入山山域の地図を、毎回購入していました。アンカーレッジは東偏22度です。

日本では、北海道、約9度。関東で約6度。九州では、約5度とコンパスの指し示す方角は西に偏っています。那覇は西偏4度。ニューヨークは西偏14度。サンフランシスコは東偏15度。ロンドン、西偏4度、パリ、西偏2度。日本でも南鳥島、東2度。石垣島西偏2度です。地図上の北とコンパスが指し示す北の差、磁針偏差ですね。実際には磁北と北極点の真北とは異なっています。地図には表記されています。お手元にある地形図を一度、じっくりと読図、本当に情報量が豊富です。

2万5000分ノ一、国土地理院院発行は民間等で作られる地図のもとになります。地形図一枚の範囲は平均して約100平方キロで全国で約4450面になります。これを4面で1面に含むのが1249面で全国を網羅している5万分ノー地形図です。登山計画を立てる時、例えば劔岳から槍が岳までの縦走であれば6面程、2万5000分ノー地形図が必要になります。計画にも欠かせない地形図、じっくりと読図して備えましょう。

山行中は現在地の確認を地形図を出し頻繁に行って下さい。ロストポジションが上位の山岳遭難原因となって来ています。

もうひとつ、高度における標準気圧、標準温度も参考になります。たとえば3800m633hpa--9度などです。テレビや新聞等で発表される気圧は基本的に全て海面レベル(SEA)気圧です。各地の気象台は各々異なる高度に有ります。各々異なる高度で計測した絶対気圧を海面0㍍地点の気圧に換算して相対的に表したものが海面レベル気圧です。

うーん表現は難しいですね。気圧とは?と問われ、即答で その場所の真上にある空気の重さを表したものです。と答えれるぐらい、お互いに基本的な知識を学んでいきましょう。では、また。
二十渉・雪山セミナーライン講座 第14回

今回は、高度に慣れることについて話します。文登研での磯部次正先生から受けた講義が分かりやすく高度に対する認識が得られます。私たち日本人にとり最高所は富士山(3776m)ですがチベットのラサ(3700m)では、今でも20万人以上の市民が、ごく普通の日常生活を送っています。ヨーロッパの最高峰、モンブラン(4810m)登頂の歴史には高山病に悩まされた伝説がありますが、この高度以上を生活圏とする人々は世界で5万人を越えます。

高所の定義  
地理的、物理的特性(高度)が、そこに赴く人びとに医学的生理学的異常を与えうる所と一応定義します。標高2500mでも肺水腫になる人もいます。医学的な定義になります。高所といえば、ヒマラヤの高峰を想像します。確かに生理的順化順応により回復させることが出来ない、長期間の生存は保障されない処です。だいたい6000m以上を一応、超高所と呼ぶことにしましょう。8000m以上を極高所としましょう。

気圧と低酸素について
標準化された高度と気圧と酸素分圧の関係、(ICAO、1968)によると地球表面のこれらの関係を示しています。現在では、標準的な関係であるとされ高度計表示の基礎となっています。
実際の地球の上(対流圏)では、緯度が変わると気圧も変わり、季節が変わっても気圧は変わります。つまりは気温により同じ緯度でも気圧は異なる、寒冷の季節には気圧は低くなります。

一口に高所登山と言っても場所、季節によっても高所の中身は異なります。寒ければ寒いほど北へ行けば行くほど《山は高くなる》と言えます。アラスカ、デナリ峰(6194m)の冬の平均気圧をヒマラヤの緯度に持ってくれば7000m峰といえます。逆にいえば、同じ山でもなるべく暖かい季節に登れば高度は低くなります。例をエベレストにとった体験を、お会いしたときに詳しく語りましょう。

寒冷について
気圧低下、低酸素についで高所を特徴づけるのは、山の上は寒いという事実です。152m登ると気温は大体、1℃低下します。これは緯度とは無関係です。ただし高緯度地方では、夏と冬の気温差が大きいです。赤道直下のキリマンジャロでは、気温は年間を通じて安定しています。冬のデナリはは厳しいです。

エベレスト頂上の平均気温は、マイナス40℃ですが冬季デナリでは、マイナス50℃以下になります。これについてもお会いしたときに詳しく体験を話します。寒暖の差も人の適応力を奪います。40℃の寒暖差がある地方も有ります。それに、風は寒さを増幅させます。風冷え効果のため体感温度は低下します。体温が奪われると全身の生化学反応が落ちます。筋肉は硬直し協調性を失い、心臓の刺激伝達は失調し、心拍出量が低下します。

寒冷に伴う利尿による循環血液量の低下もあいまって組織、脳への酸素供給が阻害され脳の神経活動の低下が起こります。つまり、全身的には低体温症、局所的には凍傷となります。対抗策は、熱を作ることを考えるより熱を失わないように工夫をすることが大事です。余談ですが身震いによりつうじょうの3倍くらいの熱生産が可能ですがいつまでも身震いを続けるわけにはいかない、エネルギーがなくなります。高地居住民は身震いだけではなく褐色脂肪を燃やして熱生産を行います。
次回へ続く。ではまた。
二十渉・雪山セミナーライン講座 第15回

続き、湿度について
相対的湿度は、天候により変化します。雨や雪が降れば湿度が100%になるのは珍しく有りません。空気中に含まれる水蒸気の絶対量は高度というよりは気温がこれを決定します。相対的湿度はどうであれ、高所の空気は常に乾いています。

高所では、呼吸が大きく早くなります。高度5500mでの軽い運動でも、呼吸により肺から失われる水分は1時間あたり200ml.と推定、発汗による水分喪失も乾燥した空気のもとでは、大きくなります。高所での脱水では、地上での場合よりも口渇感が少ないため、登山者は意識して水分を摂取に努める必要が有ります。尿量を十分(1.5L/日)保つことも重要なので高所登山者は最低3~4Lの水分を摂ります。我々の登山も2000mを越える山で、体調の不調を感じる人が多いのも水分補給、寝不足などが原因と思われます。普段生活している所より高地、高所ですから。

日射、紫外線、宇宙線について
空気の層が薄く、空気中の水蒸気量が少ないので太陽光線の空気中での散乱量を減らします。人体が吸収する日射量は山へ行けば増えます。0mでの量が5790mでは、1.5倍になります。特に紫外線に影響が出ます。地表面の反射、雪山や氷河では、皮膚、目が障害を受けやすく、帽子やサングラスは必携です。同じ理由で電離放射線被爆も増えると考えられています。3000mでは、70mradの被爆量の増加があると云います。

高所における、生理学者の理屈を覆す出来事が1978年に有りました。エベレストの無酸素登頂です。ヒトは驚くべき環境にすら、自らの肉体だけを使って到達出来ることを示しました。以後、どのようにしてこのような環境への適応が可能になったのか?適応するにはどのようなトレーニングをすれば良いのか?と研究されています。

飛躍的に登山の技術、知識が広まり、私たち登山者は恩恵を受けました。高いところ、山、高地への順応を今、一度見直してみませんか。今回はこれにて。ではまた。

冬季クライミングを積極的にしていた頃、天候のデーターをつけながら登り込んでいました。雪崩の危険度の高いアプローチを持つ岩壁に挑戦していたから命あっての物種と思い、出来ることは全てトレーニングも含めやっていました。